慢性下痢を深掘りする:4週間以上続く下痢の定義・原因の広がり・受診時の調べ方と警告サイン

公開日: 2026-10-19 / 更新日: 2026-10-19

本記事は一般的な情報であり、医療アドバイスではありません。症状が続く場合は医療機関を受診してください。

「そのうち治るだろう」と思っていた下痢が、気づけば1か月続いている。あるいは、良くなったり悪くなったりを繰り返して、もう何か月も付き合っている。こうした下痢は、数日で治まる急性の感染性胃腸炎とは、原因の顔ぶれも調べ方もかなり違ってくる。以前の記事「下痢の対処と受診の目安」では、急性の下痢を中心に、水分補給・食事・下痢止め・脱水のサインを整理し、4週間以上続く「慢性下痢」は別記事で扱うと予告した。本記事はその回収にあたる。日本消化管学会の『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症』を軸に、NIDDK(米国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所)・NHS(英国)・AGA(米国消化器病学会)などの公開情報を照らし合わせながら、慢性下痢の定義、原因がどこまで広がるのか、受診すると何を聞かれ何を調べるのか(器質性疾患を除外していく考え方)、見逃したくない警告サイン、そして日常で記録しておくと役立つことを整理する。治療は一般論にとどめ、薬の量などには踏み込まない。

「慢性下痢」とは何か:4週間という線の意味

NIDDKは、急性下痢を「通常1週間以内に自然に治まるもの」、遷延性下痢を「2週間を超え4週間未満」、慢性下痢を「少なくとも4週間続くもの」と整理しており、慢性下痢の症状は「ずっと続くことも、出たり引っ込んだりすることもある」と説明している。急性・遷延性の区分や水分補給の考え方は、前述の「下痢の対処と受診の目安」を参照してほしい。

日本消化管学会のガイドラインは、まず「下痢と慢性下痢症の世界共通の定義は存在しない」と断ったうえで、下痢を「便形状が軟便あるいは水様便、かつ排便回数が増加する状態」、慢性下痢症を「4週間以上持続または反復する下痢のために日常生活に様々な支障をきたした病態」と定義している。診断基準の面では、便の形をブリストル便形状スケール(BSFS)のタイプ6または7(ふにゃふにゃの軟便・水様便)で捉え、「排便回数の増加のみでは下痢とは表現しない」としている。便の形の見方そのものは、別記事「うんこ健康ガイド」で扱っている。

4週間という線には理由がある。ガイドラインによれば、急性下痢の原因として最も多い腸管感染症は通常1週間、長くても4週間で改善するため、4週間以上続くことは感染性の急性下痢の可能性を除くという意味を持つ。かつて「便の重さが1日200g以上」を科学的な下痢の定義とする考え方があったが、高繊維食をとる人では正常な便でも300gを超えることがあり、200g以上の人の2割程度は正常便だったことから、現在は定義として推奨されていないという。

ここでいう「日常生活への支障」には、頻回の排便、急な便意、便失禁、腹痛のほか、学業・仕事・睡眠への影響が含まれる。さらにガイドラインは、内臓感覚が鈍い人や認知症の人のように本人が症状を訴えなくても、下痢が続くことで脱水や電解質異常が起きて生活に支障が出ている状態も含めている。

頻度について、ガイドラインは日本人の「慢性下痢症(狭義)」の有病率をおよそ3〜5%程度、男性に多い傾向があると推定している(推奨の強さは付されていない)。海外の報告では4週間以上続く慢性下痢の有病率は1.0〜6.6%程度、NIDDKも米国でおよそ5%までが慢性下痢を経験しているとしている。決して珍しい悩みではない。

💬 Dr.ウンコーのひとこと 「『体質だから』は診断名じゃない。4週間を超えて続いているなら、体質で片づける前に、原因を探す順番に乗れ。慣れた不調ほど、人は調べるのをやめるからな。」

原因の広がり:ガイドラインは8つに分けている

慢性下痢の原因は、急性の感染性下痢に比べてずっと多彩だとされる。ガイドラインは、慢性下痢症を病因に基づいて次の8つに分類している。

  1. 薬剤性下痢症:抗がん薬、抗菌薬、胃酸を抑える薬、下剤など
  2. 食物起因性下痢症:カフェイン、ソルビトールなどの糖アルコール、アルコール、牛乳(乳糖)、脂肪酸など
  3. 症候性(全身疾患性)下痢症:甲状腺機能亢進症、慢性膵炎、吸収不良症候群など
  4. 感染性下痢症:ジアルジア症、赤痢アメーバ、腸結核など
  5. 器質性下痢症(炎症性・腫瘍性):クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、顕微鏡的大腸炎、大腸がんなど
  6. 胆汁酸性下痢症
  7. 機能性下痢症
  8. 下痢型過敏性腸症候群(下痢型IBS)

医師は診察と検査で①〜⑥の「原因が見つかるもの」を順に探し、それでも原因が特定できない場合に、⑦機能性下痢症や⑧下痢型IBSと考える、という流れが基本になる。以下、それぞれの特徴を見ていく。

薬と食べ物が原因になっているケース

薬剤は見落とされやすい原因のひとつだ。ガイドラインは、約700以上の薬剤が下痢に関与しており、薬の有害事象の約7%に相当するとの報告を紹介している。表には、抗がん薬、免疫チェックポイント阻害薬、抗菌薬全般、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、胃酸分泌を抑える薬(PPIなど)、マグネシウム塩やセンノシドなどの下剤、SSRI、メトホルミンなどが挙げられている。多くの薬剤は中止によって下痢が速やかに改善するが、対処が遅れると重くなることもあるため、適切な問診が大切だとされている。処方薬の場合は、自己判断でやめる前に処方した医師や薬剤師に相談したい。マグネシウム系の下剤が下痢の原因になりうる点は、「下剤・便秘薬との付き合い方」でも触れている。

NIDDKも、長期に使う薬の一例として、抗生物質が腸内細菌のバランスを変えてクロストリディオイデス・ディフィシル(C. difficile)感染症のリスクを高め、これが慢性下痢の原因になりうると説明している。抗生物質と腸内細菌の関係は「腸内細菌叢入門」にまとめている。

食べ物では、ガイドラインが、果糖を含むジュース、コーヒーやエナジードリンクなどカフェイン入りの飲料、キシリトールを含むガムや飴の摂りすぎが下痢を悪化させることがあると述べている。コーヒーの過剰摂取をやめて慢性の下痢が改善した患者がいるという報告も紹介されている。NIDDKは、乳糖不耐症(牛乳・乳製品を摂ってから数時間以内に下痢などが出る)、果糖不耐症、ショ糖不耐症のほか、牛乳・大豆・穀類・卵・魚介類などの食物アレルギーも慢性下痢の原因になりうるとしている。食事と便通の関係全般は「食べ物とうんこの関係」も参考にしてほしい。

機能性下痢症と下痢型IBS:原因が見つからなかったときの診断名

NIDDKは、脳と腸の連携の不具合(disorders of gut-brain interaction)に分類される病態として、過敏性腸症候群(IBS)(腹痛を繰り返し、便通が変わる)と機能性下痢症(他の原因によらない慢性下痢)を挙げている。ガイドラインは、機能性下痢症と下痢型IBSは「連続したスペクトラム」にあたる病態であり、日常診療では慢性下痢が主症状であれば腹痛の有無は問わない、という整理をしている。ガイドラインが定める「慢性下痢症(狭義)」は、器質的疾患など他の原因が除外されたうえで、排便の25%以上が軟便あるいは水様便である状態を指す。

NIDDKによれば、IBSの診断は、腹痛に加えて「排便に関連した痛み」「排便頻度の変化」「便の見た目の変化」のうち2つ以上があり、直近3か月に少なくとも週1回の症状があって、症状の始まりが6か月以上前であることなどを手がかりにする。ただし、貧血・肛門からの出血・血便や黒いタール状の便・体重減少といった症状がある場合は、IBS以外の問題の可能性を示すとも述べている。腹部膨満やおならとIBSの関係は「おならと腹部膨満の科学」で扱っている。

病態の仕組みは、まだ分かっていない部分が大きい。ガイドラインは、慢性下痢症(狭義)に関する報告は少ないとしたうえで、下痢型IBSで下痢が起きる仕組みとして、水分吸収の異常、腸の微小な炎症、胆汁酸の吸収障害、腸の動きの異常、自律神経の異常、腸内細菌の異常、生活習慣などが挙げられていると紹介している。心理的な要因については、IBSで関連を示す報告が多い一方、狭義の慢性下痢症と心理的異常の関連を示す明瞭なエビデンスはない、としている。

炎症や免疫が関わる病気:炎症性腸疾患・顕微鏡的大腸炎・セリアック病

潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)は、器質性下痢症の代表格だ。NHSは、IBDの主な症状として「4週間を超えて続く下痢」「腹痛」「便に血や粘液が混じる」「肛門からの出血」「ずっと疲れている」「意図しない体重減少」を挙げ、これらがあれば受診するよう案内している。

顕微鏡的大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起きる病気で、NIDDKによれば最も一般的な症状は慢性の下痢であり、高齢者と女性に多く、特定の薬剤や喫煙がリスクを高める。診断は、大腸内視鏡検査と生検(組織の採取)で行う。ガイドラインも、内視鏡で見た目に異常がなくても、顕微鏡的大腸炎のように生検が診断に不可欠な病気があるため、リスクを考慮したうえで大腸全体からのランダム生検を提案している。

セリアック病は、グルテンを摂ると免疫が異常に反応して小腸が傷む病気で、NIDDKは症状のひとつに慢性下痢(ほかに、おなかの張り、ガス、便秘、脂っぽくてかさばる悪臭のある便など)を挙げている。診断は血液検査と小腸の生検が中心で、NIDDKは、グルテンフリー食を検査前に始めると検査結果に影響するため、診断のための検査の前には始めないよう案内している。ガイドラインは、セリアック病は海外では有病率が高いが、日本での有病率は極めて低いとしている。

胆汁酸・手術後・膵臓・小腸の細菌:見逃されやすい原因

胆汁酸性下痢症は、脂肪の消化を助ける胆汁酸が小腸で十分に再吸収されず、大腸に流れ込んで下痢を起こす病態だ。ガイドラインによれば、回腸(小腸の終わりの部分)の病変や切除後、胆のう摘出後、原因不明のものなどがあり、下痢型IBSと診断された患者の約30%に胆汁酸の吸収障害を伴うとの報告がある。カナダ消化器病学会(CAG)の胆汁酸性下痢ガイドラインも、慢性下痢の患者では、回腸末端の切除、胆のう摘出、腹部への放射線治療といった危険因子を考慮することを勧めている。診断のための検査は日本では保険収載されておらず、実際の診療では胆汁酸を吸着する薬で症状が改善するかを見て診断することがある、と説明されている。

NIDDKは、虫垂・胆のう・大腸・肝臓・膵臓・小腸などの手術後に慢性下痢が起こりうること、胃や食道の手術後にダンピング症候群として下痢が起こりうることを述べている。ほかに、糖尿病に伴う自律神経の障害、膵臓の問題、小腸内細菌異常増殖(SIBO)も慢性下痢の原因として挙げられている。ガイドラインは、慢性膵炎などで膵臓の消化酵素が不足すると慢性下痢や脂肪便が起こりうること、SIBOはIBS患者の約30%に認められるとのメタアナリシスがあること、ただしSIBOの検査を実施できる施設は限られ検査法も統一されていないことを紹介している。

全身の病気や感染症が下痢として表れることも

ガイドラインは、甲状腺機能亢進症のような内分泌の病気も、慢性下痢の原因として挙げている。NIDDKは、甲状腺機能亢進症の症状として、食欲があるのに体重が減る、動悸、手のふるえ、汗をかきやすいなどとともに「頻回の排便」を挙げている。感染症では、ジアルジアなどの寄生虫や、抗生物質使用後のC. difficile感染症が鑑別にあがる。海外渡航の経験がある場合は原因の顔ぶれが変わるため、旅行にまつわる下痢は「旅行と腸」を参照してほしい。

もうひとつ、ガイドラインが慢性下痢症の重要な鑑別として挙げているのが便失禁だ。直腸に硬い便が詰まって、その脇から軟らかい便が漏れ出す「溢流性便失禁」が、下痢のように見えることがあるとされる。便秘との関係は「便秘の科学と対策」も参照してほしい。

受診すると何を聞かれ、何を調べるのか:器質性疾患を除外していく考え方

慢性下痢の診療は、「原因が見つかるものを順に確かめ、見つからなければ機能性と考える」という順序で進む。ガイドラインのフローチャートでは、まず問診・身体所見・血液検査から出発し、①原因になりうる薬があれば中止・変更を試み、②原因になりうる食事があれば食事療法を試み、③糞便検査・CT検査・大腸内視鏡検査・上部内視鏡検査で原因疾患を探し、④それでも原因が見つからないときに、機能性下痢症や下痢型IBSと考える、という道筋が示されている。

問診と診察:ここで多くが絞り込まれる

ガイドラインは、慢性下痢の診断でまず重要なのは問診と身体診察だとしている。NIDDKも、医師は症状の経過(いつからか、便の見た目、頻度)、飲食の習慣、処方薬と市販薬、これまでの病気、最近の海外渡航、家族にセリアック病・クローン病・潰瘍性大腸炎・糖尿病・IBS・乳糖不耐症などがないかを尋ねるとしている。ガイドラインはさらに、警告症状の有無、抗菌薬・糖尿病治療薬・胃酸分泌を抑える薬などの服薬歴、糖尿病や甲状腺機能亢進症などの持病、手術や放射線治療の既往、食生活と飲酒歴、炎症性腸疾患やがんの家族歴、海外渡航歴を聴き取るとしている。

身体診察では、脱水や栄養状態、体重の変化、おなかの診察、肛門の診察(直腸指診)などが行われる。NIDDKは「現在の体重を過去の体重と比べる」ことを挙げている。ガイドラインは、便の観察も有用だとしている。水っぽい便なら感染症などによる分泌性の下痢を、脂っぽい便なら小腸の病変や膵臓の働きを、粘液や血の混じる便なら炎症性腸疾患を検討するきっかけになる。

検査:血液・便・画像

ガイドラインによれば、鑑別に有用な内視鏡以外の検査は、血液検査・糞便検査・画像検査で、問診と診察から病気の見当をつけて必要な検査を個別に選ぶことが強く推奨されている(推奨の強さ:強、エビデンスレベルA)。

  • 血液検査:血球数、電解質、CRP、アルブミンなどでスクリーニングする。栄養の吸収が悪いと、鉄・ビタミンB12・葉酸の不足による貧血などが見られる。甲状腺機能亢進症が疑われるときは甲状腺ホルモンを調べる。
  • 糞便検査:抗菌薬を使った経歴があればC. difficile感染症を念頭に置く。細菌性腸炎が疑われるときは便培養、寄生虫が疑われるときは虫卵検査などを行う。便潜血検査は、高齢者では主に腫瘍性疾患、若い人では炎症性腸疾患のスクリーニングに使われる。便中のカルプロテクチンは腸の炎症を反映するマーカーで、IBSとIBDの見分けに有用との報告があるが、日本では慢性下痢症に対する保険適用はないとされている。
  • 画像検査:腹部CTなどで、腸の病変の場所や、膵臓の形の異常・石灰化といった腸の外の病変を調べる。
  • 呼気検査:NIDDKによれば、水素呼気試験は乳糖不耐症・果糖不耐症・ショ糖不耐症・SIBOの診断に使われる。

AGAの臨床ガイダンス(免疫が正常な成人の、水様の下痢が4週間以上続くケースが対象)は、慢性下痢の患者に対して、ジアルジアの検査と、セリアック病の検査(IgA型の組織トランスグルタミナーゼ抗体など)を行うことを勧め、IBDのスクリーニングには便中カルプロテクチンまたはラクトフェリンを用いることを提案している。一方で、IBDのスクリーニングに赤沈やCRPを用いないことを提案し、旅行歴などの危険因子がなければジアルジア以外の寄生虫検査は行わないことも提案している。胆汁酸性下痢の検査も提案されている。ガイドラインごとに、どの検査を重視するかの細部は異なるため、実際にどの検査を受けるかは、症状や背景に応じて担当医が判断することになる。

大腸内視鏡と生検:器質的な病気を除く中心的な検査

ガイドラインは、慢性下痢に対する大腸内視鏡検査は、器質的疾患との鑑別・除外に有用であるため、行うことを強く推奨している(推奨の強さ:強、エビデンスレベルA)。国際的な診断基準を満たす慢性下痢の患者の17〜28%で、内視鏡検査またはランダム生検で何らかの異常が見つかったという報告がある。とくに下痢型IBSとの鑑別では、「経験的な治療で効果が乏しい人」「警告症状のある人」「50歳以上の人」に大腸内視鏡検査が推奨されている、とガイドラインは記している。一方、これらにあてはまらない人では基本的に内視鏡検査は不要とされるが、そのような集団の30.3%に器質的な異常が見つかったとの報告もあり、注意が必要だと述べている。見た目に異常がなくてもランダム生検を加えることは、弱い推奨として提案されている。必要に応じて、上部消化管内視鏡と十二指腸の生検で、セリアック病などを調べる場合もある。大腸がんの検診や便潜血検査との関係は、「うんこの警告サインと大腸がん検診」にまとめている。

「異常なし」だったとき:機能性という結論の意味

検査を重ねても器質的な異常が見つからなかった場合、多くは機能性下痢症または下痢型IBSと診断される。ガイドラインは、Rome IV基準を満たし、警告徴候や診察所見に異常がない症例ではIBSの診断的中率が高かったという報告がある、としている。ただし、このなかには胆汁酸性下痢症、膵臓の消化酵素の不足、SIBOなどが含まれている可能性も指摘されており、実臨床では、疑われる病気に対して「診断的治療」(たとえば胆汁酸吸着薬を試して効くかを見る)が行われることもある。ただし、診断的治療が無効でもその病気を否定できるわけではない、とも書かれている。

💬 Dr.ウンコーのひとこと 「検査で全部『異常なし』と返ってきても、それは『何でもない』という意味じゃない。『器質的な犯人は見つからなかった』という結果だ。機能性という名前は、犯人候補を一つずつ消していった先に、はじめてつく名前だぞ。」

警告サイン:ガイドラインに挙げられている症状と、その読み方

慢性下痢のなかで「器質的な病気を疑って、早めに調べたほうがよい」目印となる症状を、ガイドラインは警告症状・徴候と呼んでいる。ガイドラインの記載では、次のものが挙げられている。

  • 予期せぬ(意図しない)体重減少
  • 夜間の下痢
  • 最近の抗菌薬(抗生物質)の服用
  • 血便
  • 大量の下痢、非常に多い排便回数
  • 低栄養の状態
  • 炎症性腸疾患や大腸がんなどの家族歴

ガイドラインは、このような警告症状・徴候があれば、さらに検査を進める必要があるとする一方、ないときは、下痢を中心とした詳細な問診・診察と最小限の検査で進めていく、としている。

ただし、この「警告症状」は万能ではない。ガイドライン自身が、警告症状があっても実際に器質的疾患が見つかる可能性は10%未満と低く、警告症状だけで器質的疾患を除外することは難しい、そのため警告症状の有用性は現時点では明らかになっていない、と書いている。「警告サインがないから大丈夫」とも言い切れないということだ。これは、前節で触れた内視鏡検査の推奨(警告症状がなくても30.3%に異常が見つかったという報告)とも一致する。

ガイドラインの警告症状の一覧には含まれていないが、ほかの公的機関の情報も確認しておきたい。NIDDKは、年齢を問わず、黒くてタール状の便、赤い血や膿の混じった便、強い腹痛、脱水の症状、意識の変化などがある場合はすぐに医師に相談すべきとし、大人では高熱があるときも同様としている。NIDDKはまた、IBSの診断にあたって、貧血・肛門からの出血・血便や黒いタール状の便・体重減少は、IBS以外の問題を示唆しうる症状だと述べている。NHSは、IBDを疑う症状として、下痢が7日を超える、血や粘液が便に混じる、意図せず体重が減る、といった場合は医師にかかるよう案内している。また、血の混じった下痢や、黒または暗い赤色の便は、緊急の受診相談(NHS 111など)を勧める症状として扱われている。

「50歳以上」という年齢は、前節のとおり、ガイドラインでは大腸内視鏡検査を勧める条件のひとつとして登場する。血便や便の細さの変化など、大腸がんにつながりうるサインの見方は「うんこの警告サインと大腸がん検診」にまとめている。

💬 Dr.ウンコーのひとこと 「夜中に何度もトイレで起きているのに、『昼間は元気だから』で流すな。ガイドラインが警告サインに数えている夜間の下痢は、昼間の元気さとは別の話だ。体重が減っているなら、なおさらだぞ。」

治療の考え方:原因があればそれに合わせ、なければ段階的に

ここでは薬の量や具体的な処方には立ち入らず、考え方だけを整理する。

  • 原因が見つかった場合は、その原因に合わせた治療になる。 原因となる薬があれば中止・変更、食事が原因なら食事の見直し、炎症性腸疾患や甲状腺の病気などの原疾患があればその治療、胆汁酸性下痢なら胆汁酸を吸着する薬、というように分かれる(ガイドラインのフローチャート)。
  • 原因が見つからない機能性の場合は、生活習慣・食事の見直しから始め、必要に応じて薬を加える。 ガイドラインは、慢性下痢症(狭義)に対して生活習慣の改善が有効かを直接調べた報告はないものの、行うことによる不利益がないため、根拠が不確実であることを理解したうえで行うことを提案している。低FODMAP食やグルテンフリー食が一部の患者に有効な可能性はあるが、ランダム化比較試験はなく、有効性はまだ明らかでないとしている。NIDDKもIBSについて、数週間試して、改善すれば少しずつ戻していく形で低FODMAP食を医師が勧めることがあると述べている。低FODMAPの考え方は「おならと腹部膨満の科学」で詳しく扱っている。
  • プロバイオティクスは、ガイドラインによれば、慢性下痢症(狭義)に有効な場合があるが、効果的な菌種・量・期間に関して明確なエビデンスはない。
  • 下痢止め(ロペラミド)は、ガイドラインによれば、慢性下痢症(狭義)の症状緩和に最も広く使われている薬剤だが、下痢と、薬の副作用である便秘との適切なバランスを見つけるのが難しい場合があること、慢性的に高用量を使うと心臓に重い影響(QT延長など)が出る可能性が報告されていることから、注意が必要とされている。血便や発熱のある下痢で下痢止めを避けるべき理由は、「下痢の対処と受診の目安」で整理している。
  • ほかの薬(セロトニン受容体拮抗薬、抗コリン薬、漢方薬、心理療法、抗菌薬など)は、ガイドラインでは「有効性が不明であると認識したうえでの治療選択肢」に位置づけられ、治療を続けても改善しないときは、二次性の下痢(薬剤性・食物起因性・症候性・感染性・器質性・胆汁酸性)の鑑別を再検討するとされている。

つまり、市販の下痢止めで症状を抑え込み続けるのではなく、「改善しないときは原因探しに戻る」のが、ガイドラインの基本姿勢といえる。

日常で記録しておくと役立つこと

記録することそのものの効果を調べた研究は、今回の確認範囲では見つからなかった。ただ、受診したときに医師が実際に聞く項目は、NIDDKとガイドラインから分かっている。それに沿って、普段から控えておくと説明しやすい項目を整理する。

  • いつから、どんなふうに続いているか:始まった時期、続いているのか出たり引っ込んだりなのか、1日の回数。便の形は、ブリストルスケールのタイプ(ガイドラインは6または7を軟便・水様便の基準としている)で書いておくと伝わりやすい(うんこ健康ガイド)。
  • 夜間・血・粘液・脂っぽさ:夜中に便意で起きるか、血や粘液が混じるか、水に浮く脂っぽい便か。
  • 体重:NIDDKは診察時に過去の体重と比べるとしているので、分かる範囲で以前の体重も控えておく。
  • 飲み食いしたもの:コーヒーやエナジードリンク、果汁、乳製品、糖アルコールを含むガムや飴、アルコールなど。食べたあと何時間で症状が出たか。
  • 飲んでいる薬:処方薬、市販薬、サプリメント、下剤を含む。飲み始めた時期と下痢が始まった時期の前後関係。最近の抗生物質の使用歴。
  • 持病・手術歴・家族歴:甲状腺や糖尿病の持病、胆のうや腸の手術、炎症性腸疾患・大腸がん・セリアック病の家族歴。
  • 海外渡航歴・生活の変化:最近の渡航(旅行と腸)。
  • 日常生活への影響:急な便意、失敗してしまったこと、睡眠や仕事への影響。ガイドラインが「日常生活に支障をきたしている」ことを慢性下痢症の定義に含めているため、困りごとも立派な情報になる。

まとめ:4週間を超えたら「様子見」から「原因探し」へ

慢性下痢は、4週間以上続く、または繰り返す下痢を指し、日本でも人口の数%が経験しているとされる。原因は、薬・食べ物・感染症・全身の病気・炎症性腸疾患・胆汁酸性下痢・機能性下痢症・下痢型IBSなどに広がり、診療ではこのうち「原因が見つかるもの」を問診・診察・検査・大腸内視鏡で順に確かめ、それでも見つからないときに機能性と考える。ガイドラインが挙げる警告症状(意図しない体重減少、夜間の下痢、血便など)は、あれば早めの精査の目印になるが、なければ安心とまでは言えないことも、ガイドライン自身が述べている。急性の下痢の対処は「下痢の対処と受診の目安」に、血便など見逃したくないサインは「うんこの警告サインと大腸がん検診」にまとめてあるので、あわせて参照してほしい。下痢が4週間を超えて続いている、あるいは繰り返している場合は、自己判断で様子を見続けず、医療機関に相談することを検討してほしい。

よくある質問(FAQ)

Q1. 下痢が何週間続いたら「慢性」と呼ばれますか?

4週間以上続く、または繰り返す下痢が「慢性下痢」とされています。NIDDKは少なくとも4週間続くものを慢性下痢とし、日本消化管学会のガイドラインも「4週間以上持続または反復する下痢のために日常生活に様々な支障をきたした病態」と定義しています。急性の感染性下痢は通常1週間、長くても4週間で改善することが、4週間という線の理由とされています。

Q2. 慢性下痢の原因にはどんなものがありますか?

ガイドラインは、薬剤性・食物起因性・症候性(甲状腺機能亢進症など)・感染性・器質性(炎症性腸疾患、セリアック病、顕微鏡的大腸炎、大腸がんなど)・胆汁酸性・機能性下痢症・下痢型過敏性腸症候群の8つに分類しています。まず原因が見つかるものを順に探し、見つからなければ機能性と考えるのが基本です。

Q3. 機能性下痢症や過敏性腸症候群(IBS)は、病気ではないということですか?

そうではありません。NIDDKは、これらを脳と腸の連携の不具合に分類される、症状のまとまりとして説明しています。ガイドラインは、機能性下痢症と下痢型IBSは連続したスペクトラムにあたる病態で、日常生活への支障や生活の質の低下をもたらしうるとしています。器質的な病気が見つからなくても、困りごとは治療や相談の対象になります。

Q4. 受診すると、まず何を聞かれますか?

いつから続いているか、便の見た目や回数、飲み食いの習慣、処方薬と市販薬、持病や手術歴、最近の海外渡航、家族の病歴などが聞かれます(NIDDK、ガイドライン)。診察では体重の変化や脱水の有無、おなかや肛門の診察が行われることがあります。

Q5. どんな検査を受けることがありますか?

血液検査、糞便検査、腹部CTなどの画像検査、水素呼気試験などがあり、大腸内視鏡検査と生検は器質的な病気を調べる中心的な検査です。ガイドラインは大腸内視鏡検査を強く推奨していますが、実際にどの検査を受けるかは症状や背景に応じて担当医が判断します。

Q6. 警告サインにはどんなものがありますか?

ガイドラインは、予期せぬ体重減少、夜間の下痢、最近の抗菌薬の服用、血便、大量・頻回の下痢、低栄養状態、炎症性腸疾患や大腸がんなどの家族歴を挙げています。ただし、警告症状があっても器質的疾患が見つかる可能性は10%未満と報告されており、ないからといって安心とは言い切れないともされています。NIDDKは、黒いタール状の便、血や膿の混じる便、強い腹痛、脱水の症状がある場合も早めの相談を勧めています。

Q7. 乳糖やグルテンが原因かもしれないと思ったら、自分で除いて様子を見てよいですか?

NIDDKは、セリアック病が疑われる場合、グルテンフリー食を検査前に始めると検査結果に影響するため、診断のための検査の前には始めないよう案内しています。乳糖不耐症は水素呼気試験などで調べられます。除去食を試す前に、医師に相談することを検討してください。

Q8. 治療ではどんなことをしますか?

原因が見つかれば、原因に合わせた治療(原因となる薬の見直し、原疾患の治療など)になります。機能性の場合は、生活習慣・食事の見直しから始め、必要に応じてプロバイオティクスや下痢止めなどが検討されます。ガイドラインは、改善しないときは原因の鑑別を再検討するとしており、市販薬で抑え込み続けることは想定されていません。

本記事は一般的な情報であり、医療アドバイスではありません。症状が続く場合は医療機関を受診してください。

参考文献