おならと腹部膨満の科学:正常な回数・ガスの正体・低FODMAPとの正しい付き合い方
公開日: 2026-08-24 / 更新日: 2026-08-24
本記事は一般的な情報であり、医療アドバイスではありません。症状が続く場合は医療機関を受診してください。
おならの回数を人に見せることはまずないので、自分の回数が多いのか少ないのか、比較のしようがない。お腹の張りも同じで、「これくらいは普通」なのか「ちょっとおかしい」なのかの境目は、意外と共有されていない。以前の記事では腸に住む微生物の話を扱ったが、今回はその微生物が実際に作り出す「ガス」そのものと、それによって起こる腹部膨満(お腹の張り)を主役に、公的機関・学会・大学の公開情報にもとづいて整理する。低FODMAP食という言葉も広まっているが、これは正しく使わないと逆効果になりうる仕組みも含めて紹介する。
おならの回数、どこまでが「普通」か
米国の大手医療機関Cleveland Clinicは、ガスと痛みに関するページで「ほとんどの人は1日最大20回ほどおならをする」としており、別のページ(においに関する解説)では「1日に25回ほどガスを排出することもある」とも紹介している。米国消化器病学会(AGA)が運営する患者向けサイトAGA GI Patient Centerも、「ほとんどの人は1日にパイント(約0.47リットル)から半ガロン(約1.9リットル)ほどのガスを排出する」としており、複数の情報源で「1日20回台」あたりが目安として繰り返し出てくる。
一方でNHS(英国国民保健サービス)は「誰でもおならをする、人によって多い少ないはあるが、何が"普通"かは人によって違う」という立場を明確にしている。つまり「1日◯回が正解」という単一の基準があるわけではなく、20回台という数字は目安のひとつに過ぎない、という理解のほうが実態に近い。
ガスはどこから来るのか:飲み込んだ空気と、大腸細菌の発酵
米国国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所(NIDDK)によれば、消化管内のガスの発生源は大きく2つに分かれる。
飲み込んだ空気(嚥下空気)
食事や飲み物を口にするとき、誰でも少量の空気を一緒に飲み込んでいる。NIDDKは、げっぷとして出ていかなかった飲み込んだ空気が腸へ移動することがあると説明しており、Cleveland Clinicも「食事の際に飲み込んだ少量の空気が消化管内に残る」ことをガスの一因として挙げている。この空気の量を増やす要因として、NIDDKはガムを噛む・飴をなめる・炭酸飲料を飲む・早食い・喫煙・合わない入れ歯の使用を挙げている。
大腸細菌の発酵
もうひとつの経路が、大腸に住む細菌による発酵だ。NIDDKは「大腸の細菌が炭水化物の分解を助け、ガスを作り出す」と説明している。小腸で十分に消化・吸収されなかった炭水化物や食物繊維が大腸まで届くと、そこに住む細菌がそれを分解(発酵)し、副産物としてガスが生じる。Cleveland Clinicも同様に「大腸内の無害な細菌が消化の過程で食べ物を分解し、副産物としてガスを放出する」としている。以前の記事「腸内細菌叢入門」で触れた「腸内細菌が食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸を作る」という働きは、実はこのガス発生ともセットになっている。
💬 Dr.ウンコーのひとこと 「おならを人前でこいて赤面するやつがいるが、その中身の半分は"ただ飲み込んだ空気"で、もう半分は"腸内細菌がお前の代わりに炭水化物を分解してくれた作業音"だ。恥じることなんて特にない。ただの代謝の副産物が、たまたま音と匂い付きで出てくるだけの話だ。」
においの正体:多くは硫黄化合物
ガスの回数や量そのものより、においのほうが気になるという人も多いだろう。Cleveland Clinicによれば、食物繊維を含む一部の食品は消化の過程で硫化水素を発生させ、これが「腐った卵」のようなにおいの元になるという。においの強いガスの原因として同院が挙げているのは、ブロッコリー・カリフラワー・キャベツなどのアブラナ科野菜、卵、にんにく、肉類など、硫黄分を多く含む食品群だ。
そのほかの要因として、Cleveland Clinicは乳糖不耐症(乳製品を摂ったときに症状が出やすい)、個人の腸内細菌叢の構成(強いにおいのガスを作りやすい細菌が住んでいる場合がある)、胃腸の調子を崩す抗生物質の服用なども、においを強める要因として挙げている。においそのものは体調の異常を意味するとは限らないが、「何を食べたか」がそのままガスのにおいに反映されやすい、という理解は持っておくとよい。
腹部膨満(お腹の張り)はなぜ起こるのか、IBSとどう違うのか
「張っている感じ」と「実際に膨らんでいる」は別物
米国消化器病学会(AGA)が発表した、げっぷ・腹部膨満・腹部膨隆に関する臨床実践アップデートでは、この3つを次のように整理している。げっぷ(belching)は食道・胃から咽頭へ空気が抜けること、腹部膨満(bloating)は本人が感じる「お腹が張っている・ガスが溜まっている・きつい」という主観的な感覚、そして腹部膨隆(distention)は実際に腹囲が目に見えて増加することを指す。つまり「張っている感じがする」ことと「実際にお腹が膨らんでいる」ことは、医学的には区別される別の現象だ。
同じガスの量でも、つらく感じる人がいる理由
米国国立衛生研究所(NIH)傘下のPMC(PubMed Central)に収録された総説論文によれば、腹部膨満・膨隆に関する複数の研究で、体内に保持されているガスの量と、本人が感じる症状の強さとの相関は弱いことが報告されている。同論文は、IBS(過敏性腸症候群)の患者は「生理的な(つまり通常の)量の腸内ガスに対して過敏、あるいは耐えられない状態にある可能性がある」とし、これを「この機能性疾患における内臓知覚過敏の一例」と位置づけている。つまり、IBSの人が感じる腹部膨満は、必ずしも「人より多くガスを作っている」ことが原因ではなく、「同じ量のガスを、より強く不快に感じてしまう」という知覚の問題である可能性が指摘されている。
米国の大手医療機関Johns Hopkins Medicineは、腹部膨満の原因として、便秘・IBSに伴う腸の過敏性・小腸内細菌異常増殖(SIBO)・胃排出遅延(胃の内容物がなかなか腸へ送られない状態)・婦人科系の要因などを挙げている。特に便秘については、「便が大腸にとどまる時間が長いほど、細菌がそれを発酵させる時間も長くなり、結果としてガスや膨満感が増える」と説明しており、便秘そのものについては別記事「便秘の科学と対策」で詳しく扱っている。
なお、AGAの臨床実践アップデートは、機能性の腹部膨満・膨隆を、IBSや機能性便秘・機能性下痢・機能性ディスペプシアといった診断が別途ついていない場合の、独立した「腸脳相互作用障害(DGBI)」のひとつとして整理している。つまり腹部膨満は、IBSの症状のひとつとして現れることもあれば、IBSとは別の独立した状態として現れることもある、という位置づけだ。同アップデートは治療について、食事の工夫・バイオフィードバック・中枢神経系に作用する薬・心理療法などを試すことが多い一方で、明確に効果が確立した決定打は乏しいとしたうえで、「プロバイオティクスは(腹部膨満・膨隆に対しては)推奨されない」とも明記している。
💬 Dr.ウンコーのひとこと 「『お腹の張り』を全部"デトックスが足りない"の一言で片づける情報がネットには溢れてるが、専門機関の総説は『ガスの量そのものより、感じ方の過敏さが問題な場合がある』と言ってる。原因が違えば、対策も当然違う。お前の腸が悪いんじゃなく、知覚のほうが過敏に反応してるだけかもしれない、って可能性は覚えとけ。」
食事の影響と、低FODMAPという考え方
NIDDKは、ガスを増やしやすい食品として、りんご・桃・梨などの果物、ブロッコリー・カリフラワー・豆類・レンズ豆などの野菜、牛乳・アイスクリームなどの乳製品、全粒穀物、高フルクトースコーンシロップを含む飲料、ソルビトールなど「-オール」で終わる糖アルコール系甘味料を挙げている。これらの多くは、Johns Hopkins Medicineが解説する「FODMAP(発酵性のオリゴ糖・二糖類・単糖類・ポリオール)」という分類とかなり重なる。同院によれば、FODMAPに敏感な人では、これらの糖質が小腸で十分に吸収されずに大腸まで届き、そこで細菌に発酵されてガスを作り出すとされ、低FODMAP食を用いた研究でガスやIBSの症状が軽減したという報告があるという。
低FODMAP食は「一生続ける除去食」ではない
ここが誤解されやすい部分だ。低FODMAP食を体系化したMonash大学(オーストラリア)は、この食事法を「栄養士の指導のもとで行う、3段階のプロセス」として設計している。第1段階(制限期)は2〜6週間ほど、高FODMAP食品を低FODMAP食品に置き換える期間。第2段階(再導入期)は、FODMAPのグループごとに少量から数日かけて食品を試し、どの種類・どれくらいの量で症状が出るかを1つずつ確認していく期間。そして第3段階(パーソナライズ期)で、実際に症状の引き金になった食品だけを制限し、それ以外はできるだけ元の食生活に戻していく。
医学文献データベースNCBI Bookshelf(米国立医学図書館)に収録されたレビュー論文は、この点についてより踏み込んだ注意を促している。同論文は「長期にわたる制限はエビデンスに基づいたものではなく、腸内細菌叢の多様性・微量栄養素の摂取・食事全体の質に悪影響を及ぼしうる」と明記し、高FODMAP食品の中には葉酸・ビタミンB群・鉄・カルシウムなど重要な栄養素の摂取源になっているものも多いと指摘している。さらに、「患者がオンラインやSNSの情報だけを頼りに自己流でこの食事法を始めてしまうケースがよくあり、その結果、過度に制限的、あるいは不完全な実施になりがちだ」とも述べたうえで、「栄養士主導の指導が、低FODMAP食を行ううえでの標準(ゴールドスタンダード)とされている」と結論づけている。つまり、低FODMAP食は「気になる食品を自己判断でずっと避け続ける」ための食事法ではなく、専門家の指導のもとで引き金になる食品を特定し、そこだけをピンポイントで避けるための、期間限定の検査ツールに近い。食事とうんこの関係全般については、別記事「食べ物とうんこの関係」も参考にしてほしい。
💬 Dr.ウンコーのひとこと 「低FODMAP食を『効きそうだから』で一生続けてるやつ、専門機関に『それはエビデンスに基づいてない』ってはっきり言われてるからな。あの食事法は"一生の食生活"じゃなく"原因を突き止めるための一時的な検査"だ。目的を勘違いしたまま自己流で何年も豆類を避け続けてるなら、それは対策じゃなくてただの偏食だぞ。」
セルフケアでできること
NIDDKは、ガスによる不快感を減らす工夫として、ガムや飴を控える・炭酸飲料やストローの使用を控える・食事中の会話を控える・ゆっくりよく噛んで座って食べる・小分けにして頻回に食べる、といった飲食習慣の見直しを挙げている。禁煙の相談や、入れ歯が合っているかの確認も、空気を飲み込む量を減らす対策として紹介されている。NHSも同様に、少量ずつ頻回に食べる・口を閉じてゆっくり食べる・定期的な運動・ペパーミントティーなどをセルフケアとして挙げており、消化しにくい食品の多食やアルコール・果汁の摂りすぎ、喫煙、ガムの多用は避けるよう勧めている。
市販薬やサプリメントについては、NIDDKは症状に応じた市販薬のほか、乳糖不耐症であればラクターゼ製品が助けになりうるとしつつ、プロバイオティクスなどのサプリメントを試す前には医師に相談することを勧めている。基礎疾患(IBSやSIBOなど)が背景にある場合は、セルフケアだけでなく医師の診察を通じた治療が必要になることもある。
受診を考えたほうがいい目安(警告サイン)
ここまでの内容は、基本的には「よくある・害の少ない」ガスやお腹の張りについての整理だ。一方で、複数の公的機関・医療機関が共通して挙げている「医師に相談すべきサイン」もある。NIDDKは、ガスの症状が本人を悩ませている場合や、症状が急に変化した場合、また腹痛・便秘・下痢・体重減少などがガスの症状と一緒に現れている場合を受診の目安として挙げている。NHSも、治まらない腹痛や膨満感、続く便秘や下痢、原因不明の体重減少、便に血が混じることを警告サインとして挙げている。
Cleveland Clinicは、発熱・吐き気や嘔吐・原因不明の体重減少・直腸からの出血・激しい腹痛を伴う場合は医師に相談すべきとしている。AGA GI Patient Centerも、持続的または極端なげっぷ・おなら、常に膨満感がある、あるいはガスが著しく増えた、セルフケアを続けても改善しない、またはむしろ悪化している場合は受診の目安になるとしている。複数の独立した情報源がほぼ同じ内容を挙げているという点は、これらのサインの信頼性のひとつの裏付けと言える。より詳しい警告サイン(血便・便通の急な変化など)と大腸がん検診については、別記事「うんこの警告サインと大腸がん検診」にまとめているので、気になる症状がある場合はあわせて参考にしてほしい。腸内細菌叢そのものの話は「腸内細菌叢入門」に整理している。
よくある質問(FAQ)
おならは1日何回までなら普通ですか?
明確な一律の基準はありませんが、Cleveland Clinicはページによって1日最大20回、あるいは最大25回程度を目安として挙げています。ただしNHSも指摘する通り個人差が大きく、この回数を超えたら異常というものではありません。
ガスはそもそも何からできているのですか?
主に2つの経路があります。ひとつは食事の際に飲み込んだ空気、もうひとつは大腸に住む細菌が消化しきれなかった炭水化物を発酵させることで生じるガスです。NIDDKなど複数の公的機関がこの2経路を挙げています。
おならが臭いのはなぜですか?
Cleveland Clinicによれば、多くの場合は硫化水素などの硫黄化合物が原因です。ブロッコリーやキャベツなどのアブラナ科野菜、卵、にんにく、肉類など硫黄分の多い食品を多く摂ると、においが強くなりやすいとされています。
お腹が張る感じと、実際にお腹が膨らむのは違うのですか?
はい、医学的には区別されます。AGAの臨床実践アップデートでは、本人が感じる「張っている感覚」を腹部膨満(bloating)、実際に腹囲が目に見えて増えることを腹部膨隆(distention)として整理しています。
IBSの人はガスの量そのものが多いのですか?
必ずしもそうとは限りません。PMC収録の総説論文によれば、保持されているガスの量と症状の強さの相関は弱く、IBSの人は通常量のガスに対して過敏になっている可能性(内臓知覚過敏)が指摘されています。
低FODMAP食は自己流でずっと続けてもよいですか?
推奨されません。Monash大学が示す方法は栄養士の指導のもとでの3段階(制限・再導入・パーソナライズ)のプロセスであり、NCBI Bookshelf収録のレビューも、長期の自己流の制限は腸内細菌叢や栄養状態に悪影響を及ぼしうると注意を促しています。
おなら・お腹の張りのセルフケアには何がありますか?
NIDDKやNHSは、少量頻回の食事、ゆっくりよく噛んで食べる、ガムや炭酸飲料・ストローを控える、適度な運動などを挙げています。サプリメントを試す前には医師への相談が勧められています。
どんな症状があれば医療機関を受診すべきですか?
発熱、吐き気・嘔吐、原因不明の体重減少、血便、激しい腹痛を伴う場合や、症状が急に変わった場合、セルフケアを続けても改善・悪化する場合は受診の目安とされています。気になる症状がある場合は医療機関を受診してください。
本記事は一般的な情報であり、医療アドバイスではありません。症状が続く場合は医療機関を受診してください。
参考文献
- Definition & Facts for Gas in the Digestive Tract | NIDDK— 膨満感の有病率(研究により16〜31%、大規模調査では過去1週間に約20%が経験)
- Symptoms & Causes of Gas in the Digestive Tract | NIDDK— 嚥下空気の仕組みと増加要因、大腸細菌による炭水化物の発酵、受診の目安
- Eating, Diet, & Nutrition for Gas in the Digestive Tract | NIDDK— ガスを増やしやすい食品・飲食習慣
- Treatment for Gas in the Digestive Tract | NIDDK— セルフケア・市販薬・受診が必要な場合の治療方針
- Farting (flatulence) | NHS— 正常な回数の個人差、原因食品、セルフケア、受診の目安
- What's That Smell? | Cleveland Clinic— 1日の回数の目安(最大25回)、硫化水素とにおいの原因食品
- Gas and Gas Pain | Cleveland Clinic— 1日の回数の目安(最大20回)、嚥下空気と大腸細菌発酵の2大原因、受診の目安
- Bloating: Causes and Prevention Tips | Johns Hopkins Medicine— 便秘・IBS・SIBO・胃排出遅延など腹部膨満の原因、便秘とガスの発酵時間の関係、低FODMAP食の位置づけ
- Gas | AGA GI Patient Center— 1日のガス排出量の目安(1パイント〜半ガロン)、嚥下空気を主因とする整理、受診の目安
- Irritable Bowel Syndrome (IBS) | AGA GI Patient Center— IBSの診断の目安(月3回以上・3ヶ月以上・生活への支障)
- New Clinical Practice Update: Belching, Bloating, Distention | American Gastroenterological Association— 膨満(bloating)と膨隆(distention)の定義区分、機能性膨満のDGBIとしての位置づけ、プロバイオティクス非推奨などの管理方針
- From comic relief to real understanding: how intestinal gas causes symptoms | PMC (NIH)— ガスの保持量と症状の強さの相関の弱さ、IBSにおける内臓知覚過敏
- Starting the Low FODMAP Diet | Monash FODMAP— 3段階の概要、栄養士の指導の必要性
- The 3 Phases of the Low FODMAP Diet | Monash FODMAP— 各段階の期間、再導入(食物チャレンジ)の方法
- The Low-FODMAP Diet in Clinical Practice: Evidence-Based Indications, Implementation, and Interprofessional Care | StatPearls, NCBI Bookshelf— 長期・自己流の制限のリスク(栄養素・腸内細菌叢多様性)、栄養士主導が標準治療である位置づけ